対象a

知の教科書 フロイト=ラカン (講談社選書メチエ)

知の教科書 フロイト=ラカン (講談社選書メチエ)

『一の線』(そこから自分をみるところ)を通って他者の側に入る人は、元の自分がいた場所に、『不在』を表す何らかの品を置いておく。これが『対象a』である。いや、正確に言えば、『品を置く』というよりも不在の空虚から幻覚的にそうした対象を『生みだす』のである。・・・こうして対象aに向けられる欲望が、欲望の原基である。この対象に向けられている欲望は、己の欲望のようでありながら、実は他者から、自己の不在に対して向けられている欲望である。この欲望の基本形を、人は失うわけにはいかない。それを失えば、もう自己の欲望も作れないからである。だから、ラカンの言うとおり、『人間の欲望は大文字の他者の欲望』なのである。/『一の線』と『対象a』とは、このように普遍の他者と個別の自己の間を繋ぐ。その繋がりが実現しているとき、人はいわゆる生きる喜びを感じる。(53-4)